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福岡高等裁判所 昭和42年(ネ)608号 判決 1973年10月31日

控訴人

後藤シゲノ

ほか五名

以上六名訴訟代理人

川口彦次郎

被控訴人

池松倉吉

右訴訟代理人

古賀誠

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、本件附帯控訴にもとづき原判決を次のとおり変更する。

(一)被控訴人が控訴人ら所有の別紙目録記載の土地部分につき囲繞地通行権を有することを確認する。

(二)控訴人らは被控訴人が右土地部分を通行することを妨害してはならない。

三、訴訟費用は第一、二審を通じて全部控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所も本件紛争にいたる事実関係については、原判決がその理由において詳細認定したとおりであると考えるので、ここに、原判決理由中該当部分〈訂正部分略〉を引用する。〈排斥証拠略〉

二そうすると被控訴人所有の福岡県三潴郡城島町大字江上上字大中島三〇五番田、同所三〇六番田、同所三〇七番一宅地の三筆の土地は形式的には町道二六号線の一部(別紙図面EFの道路)により南方の大きな公道(町道)に通じていることになるが、右町道二六号線の別紙図面E・F部分はそめ幅員0.9メートルに達しない単なる田のあぜ道で徒歩通行はともかく自転車の通行すら困難な状況にあり、他方農家である被控訴人にとつて農作業等にリヤカーの使用は不可欠であるから、その通行のできない前記町道部分の存在をもつて被控訴人所有地の通常の利用に欠けるところなしとは云い得ず、結局前示事実関係のもとでは被控訴人所有の三筆の土地は袋地であると認めるのが相当である。

三ところで別紙図面B・A間には既に控訴人ら先代によつて開設された幅員約3.5メートルの道路が存在し、前記被控訴人所有地から右道路の起点B点にいたる最も近接した地点は別紙図面C点になるが、右CB間にはもともと幅員1.6メートルの通路があつたものが控訴人ら先代らによつて幅員0.9メートルに削られたところ、被控訴人申請にかかる仮処分の執行として幅員二メートルに拡幅されており、原審検証の結果(第一回)に徴すれば、その全長は約一七メートルに過ぎないことが認められるし、そのほか前認定の事実を総合すれば、被控訴人の前記土地か、ら南方の公道(大きな町道)へ出るため通行すべき囲繞地のうち所有者たる控訴人らのため最も損害の少いのは、被控新人主張のとおり別紙図面C、B、Aを結ぶ通路部分であると解される。そしてリヤカー等人力、畜力をもつて移動する軽車両と徒歩通行には殆んど径庭はないといわねばならないし、土地の通常の利用を完うするという観点からすれば徒歩通行可能な前記町道二六号線のEF部分が存在していることをもつて右C、B、A道路の利用を否定すべき理由はないといわねばならないから、囲繞地通行につき徒歩通行と車両通行を区別する要をみない。したがつて本件囲繞地通行権確認と通行妨害の予防を求める被控訴人の請求は理由がある。なお、囲繞地通行権は法律上当然に認められる権利であつて契約や所有者の許容によつて認められるものではないから控訴人ら主張の如き事由があつたとしても、それをもつて通行権を否定することはできず、これによつて蒙る損害については袋地所有者に対する償金の支払を求め得るに過ぎないものである。

四以上の次第で囲繞地通行権の否定されんことを求めた本件控訴は理由がないが、囲繞地通行権につき徒歩通行と車両通行を区別した原判決の是正を求める本件附帯控訴は理由がある。

よつて本件控訴を棄却すると共に附帯控訴にもとづき原判決を一部変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(佐藤秀 麻上正信 篠原曜彦)

目録

三潴郡城島町大字江上上字大中島三一一番、三〇四番、三〇三番の各土地のうち、

(1)  別紙図面表示C点(原告所有同所三〇五番の田の北西の角)とB点(被告所有同所三一三番の宅地の入口西側の石垣の角)との間の、北側が堀と石垣の根に沿う巾二メートル長さ一七メートルの、ほぼ東西に通ずる通路に含まれる部分、及び

(2)  B点からほぼ南の方角に通じ南方の町道にA点で接する巾約3.5メートル長さ約60.5メートルの通路に含まれる部分。

(原告所有地から町道に至る間の同図面に赤斜線で表示したC・B・Aを結ぶかぎ形の通路に含まれる部分) 以上

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